ガザ地区の病院での爆発で多くの民間人が犠牲になったことをきっかけに、世界各地で抗議デモが拡大しています。中東諸国だけでなく、デモは欧米諸国でも起きています。
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記者(米・ワシントン、18日)
「こちら議員会館です。アメリカメディアが中継をするスペース、その吹き抜けの下に、イスラエルに対して即時停戦を求めるパレスチナ支持の人たちが集まり、座り込みを行っています」
「今すぐ停戦せよ!」というシュプレヒコールが上がります。集まったデモ隊が連邦議会の建物に入り、座り込みをして即時停戦を求める行為も行われています。
アメリカメディアによると、議会警察はこの座り込みで約300人を逮捕したということです。映像に映っていましたが、デモ隊が身につけていたTシャツには「JEWS SAY CEASEFIRE NOW(ユダヤ人は今すぐ停戦を求める)」と書いてありました。ユダヤ人の中からも、イスラエルに対して即時停戦を求める声が上がってきています。
●激変…対立の構図は?
●ガザ地区からなぜ出られない?
以上のポイントを中心に詳しく解説します。
■イスラエルとアラブ諸国「新しい中東の夜明け」 2020年以降に関係改善進む
まず、さらに複雑になってきた対立の構図を、あらためて整理していきます。
上の図は、今回一連の攻撃が始まる「前」の状況です。長年、戦争を繰り返してきた歴史もあり、イスラエルと「国交」を持つアラブ諸国は、エジプトとヨルダンの2か国だけでした。
この状況が大きく動いたのが、2020年の「アブラハム合意」です。
イスラエルとアラブ首長国連邦(=UAE)、そしてバーレーンとの間でそれぞれ国交が結ばれました。この交渉を仲介したアメリカのトランプ大統領(当時)は「新しい中東の夜明け」と表現しました。
この年、イスラエルはさらに、スーダン、モロッコとも相次いで国交を結び、アラブ諸国4か国と一気に国交を樹立しました。「関係改善」が進んでいたということです。
■サウジアラビアと国交正常化へ イスラエルの動きに…ハマスが「危機感」
さらに今年、大きな動きがありました。中東の2つの大国イランとサウジアラビアが中国の仲介により国交を回復しました。シーア派のイランとスンニ派のサウジアラビアという宗派の違いがあり、この2か国は断交していましたが、「7年ぶり」の国交回復となりました。
さらに、今年に入ってサウジアラビアとイスラエルの間でも「国交正常化」の動きが活発になっていました。もし国交が結ばれれば歴史的なことです。このように、中東ではイスラエルと周辺のアラブ諸国との関係改善の動きが進んでいました。ただ、こうした動きに「焦り」や「危機感」を抱く勢力がいたんです。
それが、イスラエルと対立するイスラム組織「ハマス」です。
ハマスはこれまでイランなど複数のアラブ諸国からの支援を受けてきましたが、イスラエルとアラブ諸国が次々と国交樹立に動く中「このままではアラブ諸国から見捨てられてしまう」と危機感を募らせていたんです。そのため「関係改善の動きを妨害したい」と考えていたとみられます。
そこで起きてしまったのが、今月7日に行われたハマスによるイスラエルへの大規模な攻撃です。多数のロケット弾攻撃や音楽フェスティバルへの襲撃・誘拐など、大きな犠牲が出たことに対してイスラエル側も即反撃しました。双方の死者はこれまでに4800人を超えています。
■ハマスの“狙い通り”か… 構図一変 孤立を深めるイスラエル
ハマスの大規模な攻撃以降、イスラエルの国交正常化の動きに変化はあったのか。その構図は、一変しています。
まず、イスラエルとサウジアラビアの間で行われていた国交正常化交渉は、凍結されました。また大国イランは「反イスラエル」と「アラブ諸国の結束」を呼びかけています。
これはある意味、ハマスの“狙い通り”となり、イスラエルは孤立を深めています。さらに、そこへ「病院の爆発」という大変な事態が起きたため、イスラエルを訪問したアメリカのバイデン大統領とアラブ諸国側との直接会談は中止になってしまいました。
世界各地で「反イスラエル」のデモなども広がっていて、両陣営の対立が深まる形になっています。
■ガザ地区からなぜ出られない? ラファ検問所いつ開通?
もう1つのポイントが、ガザ地区からなぜ出られないのかということです。
18日には、ガザ地区に人道支援物資を搬入するため、エジプトとの間にあるラファ検問所を開通させることで、アメリカとエジプトが合意しました。エジプト側では水や食料、医薬品や燃料などを積んだトラックが120台ほど並び、門が開くのを待っている状態です。
現時点ではまだ「開通した」という情報は入っていませんが、今回の支援物資の搬入については、通過できるのは「最大でトラック20台まで」とされていて、今後さらに多くのトラックの通過を認めることが求められています。
■検問所はなぜ開かないのか…エジプトの抱える不安とは?
物資の通過が認められたのはよかったのですが、退避を求める人々はまだ出られないのでしょうか。人道物資という「物」の搬入は決まっても、「人」すなわちガザ地区から退避しようと検問所の前に押し寄せた大勢の人々は、エジプト側に出ることを認められていません。
それはなぜなのか。エジプトとしても「同胞であるパレスチナ人を助けたい」という思いはあるものの、そう簡単に検問所を開けられない「不安要素」が大きく2つあります。
まず「パレスチナ人の土地をイスラエルに奪われる」ことにつながってしまうという不安です。長い歴史の中でパレスチナ人は土地を追われて難民となってきました。その歴史を繰り返したくない、という思いがあります。
そしてもう1つは「ハマスや他の過激派が流入してくる」という不安です。検問所を開けると、ガザの一般住民に交じって、エジプト側にこうした人々が入ってくる可能性があるんです。これまでも散々、そうした過激派によるテロに悩まされてきたエジプトとしては、国内の治安が悪化することは避けたいということです。
さらに、エジプトはこれまでもシリアやスーダンなどからも「難民」を大勢受け入れてきました。一方で国内の経済状況は悪化していて、これ以上、難民を受け入れる余裕はないという本音もあるとみられます。
◇
イスラエルによるガザ地区への地上侵攻は、いつ始まってもおかしくない状況です。そうなれば、民間人に甚大な犠牲が出ることは避けられません。人命優先の対応が求められています。
(2023年10月19日放送「news every.」より)
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